うすい日記

ゆるりと続く日々のできごとを、思いつくままに書いてます。

田舎の不穏な電車

今週のお題「ちょっとコワい話」

 

もう10年以上前の話です。

その日わたしは、実家から一人暮らしの自宅に戻るため、田舎の一両編成の電車に乗りました。

そんなに遅い時間ではなかったのですが、陽はすでに暮れていました。

 

乗客は少なく、長椅子の座席の真ん中あたりにスーツ姿のおじさんが一人と、ボックス席に二人組の女子高生が向かい合って座っていました。

わたしは、おじさんとは反対側の長椅子の隅っこに座り、ボックス席の裏側に体を預けてぼんやりと向かいの窓を見ていました。

 

電車の窓に映った自分の姿が一番ぶさいくなんだっけ…とか思いつつ、チラチラと流れる田舎の明かりを背景に自分の姿を眺めていたところ、突然

 

ドンッ!!

 

と低く、鈍い、何かがぶつかったような音がして、思わず体を起こしました。

 

「わしがあいつのこと好きじゃゆぅの知っとったろうが!」

 

叫びたいのを必死に堪えた、それでも抑えきれない怒りに震えた声の主は、女子高生の一人でした。

 

「知っとって話聞いて、影でわしのこと笑っとったんか!!」

「そんなつもりじゃ…」

「じゃーどういうつもりだ!!!」

 

ドンッ!!

 

おじさんもビクッとしました。

どうやら、怒っている女子高生が座席を蹴っているようです。

 

女子高生たちは、たまたまわたしの斜め前の席。

ベリーショートの女の子が顔を真っ赤にして、怒りと悔しさで今にも泣き出しそうな顔をしています。

向かいの女の子はボブヘアーで、うつむいていて、顔は見えないものの肩を震わせて泣いているようでした。

 

ただただ「ごめん…」と繰り返すボブヘアーの女の子。

責め立てるベリーショートの女の子。

 

どうも、ベリーショートの子の好きな人と、ボブヘアーの子が付き合っていることが発覚したらしい。

ボブヘアーの子は言い出せずに、ずっと隠していたらしい。

本当は怒鳴り散らしたいのを必死で抑えているのか、全部ではないにしろ話していることが自然に聞こえてきてしまいます。

 

辛いよね…くやしいよね…

見た目はボーイッシュでも心は乙女だもん…

そりゃ傷つくよね…

でも一人称が「わし」ではちょっといかんと思うの…

 

女子高生の本気の怒りはせつなく、それゆえ怖い。

なんだか自分が怒られているような気がしてきて、自然に背筋が伸びてうつむき加減になり、心の中で「はい…はい…すみません…」とつぶやいてしまいます。

おじさんも同じなのか、背筋を伸ばしてうつむいています。

 

田舎の日没後の電車の利用客は少ない。

その後もほとんど乗客は増えず、おじさんとわたしは不穏な空気のなか、さも反省しているかのような表情で電車に揺られていたのでした。